SSブログ

新発見「遺作の蟹細工花瓶」 MIYAGAWA MAKUZU KOZAN  

明治4年、初代宮川香山は横浜に眞葛窯を築きます。

初期の眞葛焼の特徴は、「リアルさを追及した技巧」にあると思います。

kani1.jpg
重要文化財 明治14年作 初代宮川香山「褐釉蟹貼付台付鉢」 東京国立博物館所蔵

眞葛焼はその後作風を一変させます。

研究熱心な香山は、さまざまな色調の釉薬を研究開発し、日本でいち早く「釉下彩磁器」を完成させるのです。

「釉下彩」とは、ガラス皮膜のような透明釉の下に、色絵を施し発色させる技法です。(いわゆる染付も釉下彩の一種です。)

Img2210-1本番tif .jpg
(初代宮川香山作 「宮川香山 眞葛ミュージアム」寄託作品  http://kozan-makuzu.com/  )

美しい色彩で表現された、柔らかく優雅な絵付けは、芸術的にも高い評価を受けます。

香山は生涯をかけて、釉下彩技法を完成させ、優れた磁器を製作したのです。


話は少し変わってしまいますが、晩年、香山は明治14年に製作した蟹と同じ作品を再度製作します。

kani3.jpg
大正三年作 源吉兆庵 所蔵

kani2.jpg
大正五年作 田邊コレクション 渡蟹水盤

(注: 田邊コレクション 渡蟹水盤の共箱には、「応需製作」と記されていることが田邊哲人先生著 「帝室技芸員 眞葛香山」で明らかにされています。「応需製作」とは、製作依頼があり、それに応じる形で製作したということになると思います。)



しかし、晩年に製作された蟹の作品はこれらだけではありませんでした。

最晩年に製作された、もうひとつの蟹。


それは、初代香山が自らの意思で製作した、より日本的に洗練させた作品です。

その作品こそが、昨日のブログで予告させて頂きました、新発見の「遺作の蟹作品」なのです。




真葛焼宮川香山眞葛焼蟹渡り蟹1.jpg
新発見 初代宮川香山遺作 「宮川香山 眞葛ミュージアム」寄託作品   http://kozan-makuzu.com/  




真葛焼宮川香山眞葛焼蟹渡り蟹2.jpg




甲羅、足先、そして爪、実に繊細な色調を、見事に釉下彩で仕上げています。

初期の眞葛焼の特徴である「リアルさを追及した細工」、そして生涯をかけて完成させた「釉下彩技法」。

その両方の特徴を合わせ持ち、まるで香山の一生を凝縮したかのようにも感じます。


この作品には、いたずらに技巧を誇示したり、人々を驚かせてみせようという意図は感じられません。

質素で控えめな伝統的な日本の美が宿っているように思います。





「幻のやきもの」と言われる眞葛焼。

これからもさまざまな作品が発見され、研究が進められることと思います。

今日でこのブログは一区切りとなりますが、これからも眞葛焼の研究は継続していきたいと思います。

世界で認められた日本の芸術家はごくわずかです。

日本が誇る陶芸家 宮川香山。

私たちは、その名前を決して「まぼろし」にしてはいけないと思うのです。



眞葛 博士 (マクズ ヒロシ)


2011.11.19 追記 → 本作品の展示について http://www.hamakei.com/headline/5529/ 
nice!(9)  コメント(5)  トラックバック(0) 
共通テーマ:アート

nice! 9

コメント 5

ホシ

ご訪問ありがとうございました。
眞葛焼、初めて知りました。
焼きもの詳しくないもので、すいません(^^);

by ホシ (2009-04-09 10:14) 

hazano

MAKUZUさん
初めまして…
眞葛焼きの研究・調査の足跡を読ませて戴き、感動しました。
仕事の傍ら良く調査され、足を運び積極的に取組まれている
姿に敬服致します。
横浜に住んで長いのですが、全く知らず恥ずかしい限りです。
ありがとうございました。

by hazano (2009-04-12 22:57) 

michie

ご訪問、ありがとうございました。
陶芸を趣味でしている身ですが、勉強不足で…(><)
何かの本でちらっと観たことがある程度です。
ほんとにリアルですね。驚きです。
今度、実際に観てみたいです。
by michie (2009-04-12 23:44) 

nonno

ご訪問&nice!ありがとうございました。
こちらで眞葛焼を初めて見ましたが、そのリアルさと美しさに圧倒されました。

by nonno (2009-04-16 00:00) 

かんべえ

はじめまして。
 宮川香山が気になっていたのですが、先日ようやく宮川香山記念館を訪問することができました。オープニング展の最後に飾られていたこの遺作、ほんとうにすばらしかったです。

 この秋は、宮川香山記念館の新しい企画展はもちろん、横浜美術館や東京国立博物館の展覧会でも香山の作品に出会えることを楽しみにしています。

 ささやかながらブログに記事を書く際に、こちらでたくさん勉強させていただきました。ありがとうございました。写真も含め、さまざまな形で愛情こめて香山作品を紹介しておいでになりますね。

 ブログの記事内で紹介リンクを貼りましたので、こちらにトップのurlを残しておきます。
by かんべえ (2009-10-03 23:35) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

トラックバック 0